人工知能美学芸術研究会(AI美芸研)

人工知能美学芸術展2023 @ 旧東京音楽学校奏楽堂
「AI芸術の先駆と拡張」
〜自動ピアノ・四分音・生成AI〜
記録

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■概要

【名称】AI美芸展「AI芸術の先駆と拡張」〜自動ピアノ・四分音・生成AI〜
【会場】重要文化財・旧東京音楽学校奏楽堂
【日時】2023年9月2日(土) 13:00展覧会開場 14:00コンサート開始 17:00コンサート終了 18:00展覧会閉場
【主催】特定非営利活動法人AI愛護団体
【共催】人工知能美学芸術研究会(AI美芸研)
【助成】公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京[スタートアップ助成]、令和5年度台東区芸術文化支援制度対象企画
【協力】Espacio Nancarrow O'Gorman


「AI美芸展2023」とも銘打たれた本企画は、19世紀末に創建された歴史的建造物(旧東京音楽学校奏楽堂)に、20世紀初頭の米国製自動ピアノ[以降、自動ピアノ]と、全ての鍵盤が1/4音ずつ低く調律されている国産ピアノ[以降、四分音ピアノ]を持ち込んで開催された、1日限りの「音楽コンサート+ホワイエ他でのAIアート展+幕間でのAI美芸研シンポジウム」と、大変内容濃厚な展覧会であった。

ロール紙方式によるコンロン・ナンカロウ《自動ピアノのための習作》連続生演奏。
自動ピアノ(無人)と四分音ピアノ(有人)の世界初共演による四分音曲演奏。
最新の生成AIを用いて作曲された楽曲初演。
最新の生成AIを用いて制作された美術新作を含む展示。

以上が行われた。

出演は大瀧拓哉(四分音ピアノ演奏)、柿沼敏江(第46回AI美芸研シンポジウム登壇)、主催の中ザワヒデキと草刈ミカ(美術家、特定非営利活動法人AI愛護団体、人工知能美学芸術研究会)であった。
また、作曲家ナンカロウ夫人杉浦洋子氏(考古学者・メキシコ在住)からは、ナンカロウ氏旧邸からのビデオレターも披露された。

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■人工知能美学芸術展覧会
明治建築である会場は、現存する日本最古の洋楽コンサートホールである。
猛暑の中来場し、1Fの中央受付を済ませると、シンメトリーに左右に延びる赤い絨毯の廊下から既に多くの様々な作品が並び展示の充実さが窺える。
しっとりとした漆喰の壁も然る事ながら、その両脇にリズミカルに並べた譜面台の上の作品群が来場者を招き、早速美術展へと誘う設定だ。

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《プロンプト》連作 2023(新作)/AI愛護団体+Midjourney

《プロンプト》作品群は、今回の展覧会に纏わる言葉を日本語からChatGPT4で英語に変換し、それをMidjourneyに入力して生成したものだ。
「ナンカロウ」や「アンピコピアノ」「四分音ピアノ」などの言葉からAIが生成したイメージは、何ともユーモアで、同時に鑑賞者としての能力も試されるものだ。
本連作のうち、アクリルタイプの10点を左右に5点ずつ配した。そのうちの1点は本企画ポスターに採用された画像であった。

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《NPO法人AI愛護団体設立趣旨書》2021/人工知能美学芸術研究会
《NPO法人AI愛護団体定款》2021/人工知能美学芸術研究会

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《パンチマニフェスト》/ヴォルフガング・ハイジック

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《2台のピアノのための四分音ハノン》楽譜 2022/人工知能美学芸術研究会

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《2台のピアノのための3つの四分音曲》楽譜/チャールズ・アイヴズ

尚、1Fには、旧東京音楽学校奏楽堂の歴史にまつわる常設展示と企画展示を行う館内展示室がある。旧東京音楽学校奏楽堂といえば、明治の創建期にマーラーの交響曲の日本初演なども行われ、音楽界のみならず多くの文化人も集ったという歴史の厚みが窺える由緒正しき場所だ。 この館内展示室での展示は、(一方で生成AI等の新しきを知りつつ)歴史的建造物に歴史的な自動演奏楽器を持ち込み故きを温ねるという本企画趣旨(人工知能温故知新)にも合致するものである。そのため会場側に御願いし、特別に本展開催時間中にも館内展示室を公開し、来場者に鑑賞いただけるようにした。これが功を奏し、より厚みの有る展覧会となった。

左手の1F廊下から瀟洒な階段を上がるとホワイエに出る。かつてのコンサートに来場した人々も、またここで様々に挨拶などして交流したであろう。
窓に上野公園の木々が映えるこの空間が、美術展のメイン会場となった。

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《プロンプト》連作 2023(新作)/AI愛護団体+Midjourney

《プロンプト》作品群のうち、キャンバスタイプの6点を譜面台にそれぞれ異なる高さや角度で設置しホワイエ内に散在させ、より立体感のある自由度の高い展示空間とし来場者を楽しませた。コンサート終了後の時間にはここホワイエで美術、音楽、研究、その他の方々や新聞記者から今回の感想や質問など頂いたのだが、今も昔も変わらないホワイエでのこうした交流が、背後に置かれたこれら最新のAI生成絵画によって彩られ、主催者としても嬉しいものであった。

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《自動ピアノのための習作》ロール/コンロン・ナンカロウ

「第44番a」のロールを展示用に供出した。ちなみにコンサートでは「第44番a+b」のロールが演奏された。

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《人工知能美学芸術交響曲》楽譜 2022/人工知能美学芸術研究会

《Documental Nancarrow Edit》/Espacio Nancarrow O'Gorman 提供

ナンカロウ氏旧邸は、彼と親しかった建築家オゴーマンの作品でもある。
現在はEspacio Nancarrow O'Gormanとなっている。
今回の展覧会では、そのEspacio Nancarrow O'Gormanからの御厚意により提供して頂いた15分弱のナンカロウのダイジェスト映像をホワイエにて上映した。

ホワイエからはホール左扉に通ずるが、ホール右扉の先、1Fからだと右手の階段を昇った廊下奥にも敢えて1点、存在感の強い新作を設置した。
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《NPO法人AI愛護団体設立1周年記念:安全(鈴虫)》2023(新作)/人工知能美学芸術研究会

鈴虫はアクリルの虫籠に入れられ、更に外側にアクリル展示ケースがあるため二重となっており、人間には到底悪さを働かない状況である。安全なのである。
これを放ち野放し状態にすれば、悪さを働くかもしれない。という現在のAI「制御」に照らし合わせた作品。
コンサートホール内で行われる演奏と、ホール外の空間では、鈴虫たちの合唱が鳴り響くという仕組みだ。
来場者には旧奏楽堂の建築物の隅まで作品観覧と同時に満遍なく観て回れるよう、作品設置位置と来場者の動線を考え、館内空間を最大限に活かした。

展覧会はコンサートが始まるまでの13:00-14:00、コンサート第1部とシンポジウムまでの間の15:30-16:00、コンサート終了後の17:00-18:00のそれぞれの時間帯に来場者に鑑賞頂いた。コンサート内容と展示内容は互いに連関しているものが多く、また、コンサートでは2023年6月に登場した音楽生成AIのMusicGen、展覧会では2022年8月に登場した画像生成AIのMidjoiurneyを用いた新作群が含まれていたため、両者を比較して考察することもできた。観客の関心は高く、コンサート終了後にも熱心な十数名の観客がホワイエに残り、《Documental Nancarrow Edit》を繰り返し見入り、主催者としては様々な質問の応対に追われるという嬉しい事態であった。

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■人工知能美学芸術コンサート 第1部:自動ピアノ
展覧会を鑑賞していた来場者には14時までにはホール内に着席するように促し、開演5分前には注意事項等を司会がアナウンスした。舞台中央には自動ピアノを鍵盤を客席正面に向けて配置し、舞台後方のパイプオルガン脇の左壁面にはピアノ下部のモーターシステム、右壁面には鍵盤手前のピアノロールを捉えた映像を映し出した。

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コンロン・ナンカロウ
《自動ピアノのための習作第3番a》
《自動ピアノのための習作第3番d》
《自動ピアノのための習作第3番e》

14時、主催の草刈ミカが舞台下手から登場し中央に歩みを進め、上手から現れた黒子からロールを受け取りピアノにセットした。草刈と黒子が舞台から捌けるとロールが始動し、無人演奏が始まった。楽曲が終わるとロールは自動で巻き戻され、再び草刈と黒子が現れてロール交換を行い、次の楽曲に移行した。

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3曲終わったところで司会からアナウンスが入り、主催の中ザワヒデキと草刈ミカからの挨拶となった。旧東京音楽学校奏楽堂での開催意義等に触れた後、壁面映像をナンカロウ洋子氏からのビデオレター(約5分・メキシコのナンカロウ氏旧邸にて撮影)に切り替えた。これは本企画のために Espacio Nancarrow O'Gorman のスタッフが新たに撮影したものであり、洋子氏は日本語でコンロン氏の制作について語られていた。

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コンロン・ナンカロウ
《自動ピアノのための習作第47番》
《自動ピアノのための習作第44番a+b》
《自動ピアノのための習作第43番》
《自動ピアノのための習作第40番》I
《自動ピアノのための習作第37番》
《自動ピアノのための習作第33番》
《自動ピアノのための習作第21番》
《自動ピアノのための習作第19番》
AI愛護団体+MusicGen
《自動ピアノのための独奏プロンプト第1番》2023(初演)

MIDI方式ではない、オリジナルのロール紙方式の自動ピアノによるナンカロウ作品の(生)演奏はアメリカやヨーロッパでは行われているが、アジアでは主催者が知る限り、主催者達自身以外には誰も行っていない。2017年に沖縄科学技術大学院大学(OIST)で開催した「人工知能美学芸術展」、2021年に長野県のアンフォルメル中川村美術館で開催した「人工知能美学芸術展:美意識のハードプロブレム」、2022年にパルテノン多摩 大ホールで開催した「人工知能美学芸術展:演奏家に指が10本しかないのは作曲家の責任なのか」に引き続く4回目が本企画であり、東京都心では初の披露となった。

なお、主催者のナンカロウ作品への着目は、1998年に中ザワが『ユリイカ』誌に寄稿した論考「作曲の領域 〜シュトックハウゼン、ナンカロウ〜」が発端である。そして2017年、草刈と中ザワは人工知能美学芸術研究会でナンカロウを「人工知能音楽の先駆」として取り上げていくことで意気投合、同年にナンカロウ作品のロールを大量発注し、2021年に自動ピアノを入手した。

第1部のプログラムが終了すると約30分間の休憩となり、その間に来場者はホワイエ他での展覧会を楽しむことができた。舞台上ではその間、第2部のための配置転換を行い、中央左に自動ピアノ、中央右に四分音ピアノを、共に鍵盤を客席正面に向けて並べた。

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■第46回AI美芸研シンポジウム「AI芸術の先駆と拡張」
休憩ののち舞台手前で柿沼敏江氏、主催の中ザワ、草刈による30分ほどのトークを行った。柿沼氏は1986年に行ったナンカロウ氏へのインタビューについて手持ちの資料を見せながら語り、また、今では人間の演奏技術が上がり、いくつかの自動ピアノのためのナンカロウ作品が一部のピアニストによって弾かれている話をされた。こうした「機械演奏に人間演奏が追いついていく現在」という話を受けて中ザワは、「機械美学に人間美学が追いつけなくなる未来」(AIが提出する「美」に、人間の鑑賞能力がいつしか追いつけなくなる)という、草刈と中ザワがかねてから追究しているテーマについて語った。また、自動ピアノの演奏は同じロールの再生であっても気温や湿度等の影響で毎回異なるものとなること、特に今回は事前に調整していた関西と本番の関東とで交流の周波数が異なることが看過できず、つまりは「生」演奏なのだということにも言及があった。


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■人工知能美学芸術コンサート 第2部:自動ピアノ+四分音ピアノ
シンポジウムが終わって登壇者が捌けると、再び草刈と黒子が現れてロールを左の自動ピアノにセットした。ピアニスト大瀧拓哉氏が登場し観客から拍手で迎えられ、右の四分音ピアノの前に座り譜面台にiPadを置き、世界初の「自動ピアノと四分音ピアノの共演」が開始された。

人工知能美学芸術研究会
《2台のピアノのための四分音ハノン》2022(自動ピアノと四分音ピアノの共演)

2022年の初演時は通常調律のピアノも四分音ピアノも共に人間が弾いたが、本企画では通常調律のピアノパートは自動ピアノにより無人演奏された。

AI愛護団体+MusicGen
《自動ピアノと四分音ピアノのための二重奏プロンプト第1番》2023(初演)
《自動ピアノと四分音ピアノのための二重奏プロンプト第2番》2023(初演)

自動ピアノが奏でる通常音程の音群に大瀧の四分音群が重なり、自動ピアノ独奏では得られない新たな音響世界が広がった。

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プログラム最後の曲が終わり拍手が続くさなか、大瀧に招かれて中ザワと草刈が作曲者(AI愛護団体)として壇上に昇った。拍手が鳴り止むとそのまま主催からコンサート終了の挨拶を行い、引き続き展覧会が18時まで開幕していること、受付では物販もあること等が伝えられ、順にホワイエに移動となった。

来場者は98名であった。

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ピアノロール製作……ヴォルフガング・ハイジック
舞台進行・照明……ベルント・エルブス
録音・録画・音響……羽山進一、後藤天 ほか
写真撮影……松蔭浩之 [M]、皆藤将 [K]
動画撮影……みそにこみおでん(AI美芸研スタッフ)
自動ピアノ調律・運搬……森田ピアノ工房
四分音ピアノ調律・運搬……橋本ピアノ